2017年5月19日金曜日

『吉田知子選集Ⅰ 脳天壊了』

視界が狭く、悪く、薄暗い。何か、異様なものがそこには明らかにあるのだけれど、それがよく見えない。粗く、ぼやけていて、それがどんなものかを確認する事が出来ない。不鮮明。断片的。突然飛ぶ。ぶっつりと切れる。集めても中々繋がらず、全ては見えず、ただ唯一確かであるその気配を暗がりで感じ続ける怖さ…。
あんなにも狭く、粗く、薄暗く、ぼやけた視界の中、ひっそりと潜むように棲息する語り手達もまた不気味である事。どこか不気味。捉え難く、それもまたぼやけた不気味さ。他にどこにも行けず、逃げ場もなく、行き詰まったような、嫌な不気味さ…。視界不良は語り手のもの。その狭さも、薄暗さも、彼等が見ている世界そのもの。なんとも恐ろしい所に入り込んで来てしまったと思う。皆、自らの、或いは周囲の異常を明らかにする事もなく、けれど明らかに異常であるまま、不快な余韻を残し、静かにいなくなって行く。



脳天壊了―吉田知子選集〈1〉
吉田 知子
景文館書店
売り上げランキング: 719,710